スタッカート




「ばかじゃねえの」


顔を歪めて吐き捨てるようにそう言ったトキは、ピアノから飛び降りて静かに着地すると、早足で私の横を通り過ぎようとした。


反射的にその腕を掴んで止める。


びくり、とその肩が震えた。


「……離せ」

「……ヤダ」

「もう関わるな!」

「ヤダ!!」


苦しげに、眉間に皺を寄せたトキは、私の腕を乱暴に振りほどいて。声をあげた私の両肩にそっと掌を乗せると、俯いて言った。



「……傷つけてしまうかも、しれねえんだ」


その声もまた、微かに震えていた。
< 260 / 404 >

この作品をシェア

pagetop