スタッカート
横断歩道の赤信号が点滅し、やがて青信号に変わる。
それでも私と佐伯はその場から動かずに、向かいあったままだった。
「あいつは……」
佐伯琢磨の唇が動く。
……が
「ま……っ、待って!」
私は咄嗟に、その続きを止めた。
怪訝そうにこちらを見つめてくる佐伯の視線が痛い。
それを真っ直ぐに捉えることができず、私は俯いて、五月蝿い心臓を抑えながら言った。
「ごめん。やっぱり、いい」
佐伯はさらに眉間に皺を寄せると、首を少しだけ傾けてきいてきた。
「……なんで?」
「何か……何か凄く、悪い気がするの」
「それは、あいつに対してってこと?」
こくりと、頷く。
きゅうっと、胸が苦しくなった。
あのとき――佐伯が口を開いたのと同時に、物凄い罪悪感が胸を襲った。
自分できいておきながら、それが簡単に触れてはいけないものだということに、私の心のどこかが寸前で気付き、手を伸ばしてしまった自分を慌てて止めた。
俯いたままでいると、頭上から重いため息が耳に届いた。
「……本当になんで、あいつなんだよ…」
ぼそりとそう呟いた佐伯は、私の顔を見ずに、黙って青信号の横断歩道を歩いていった。