スタッカート
「……何で、」
トキは小さくため息を吐くと、私の肩から掌を下ろした。
「何で、きかなかった」
「……ちゃんと、トキから聞かなきゃ駄目だって思ったの。
人の過去を……本人じゃなく他人から聞き出すっていうことが、すごくずるい気がして」
そう答えると、トキはしずかに目を伏せて。
深く息を吐いたあとに、壁にかけられたギターの横に置いてあった二脚の椅子を持ってきて、その一つにドカリと腰掛けた。
藍色の瞳でつったったままの私を見、すっと横に置いたもう一つの椅子に視線を落とす。
それが座れという意味だと分かり、思わず口元がゆるゆると緩んだ。
話してくれる。
軽く鼻をすすって、柔らかいクッションに腰を下ろす。
「……小学校に入ったばかりの頃だ。」
トキの、薄い唇が動く。
窓を打ち付ける雨の音が、一瞬、止んだ。
「朝起きたら、親父もお袋も、居なくなってた」
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