スタッカート

「おにいちゃん……?」

背後からか細い声がして振り返ると、あの女の子が目を擦りながら俺を見ていた。

何度か瞬きをしたあと、俺だと分かるとうれしそうに目を細めて、ぬいぐるみを抱いて小走りで近づいてくる。

その時

三歩ほど先にあったドアが開いて、佐伯琢磨が顔を出した。

俺を上から下まで目を見開きながら見ると、その顔はどんどん険しくなっていって――


やがて物凄い勢いでドアに向かって走っていき、ドアは開け放したまま、出て行った。


俺はただ呆然と、一枚一枚、家族写真に目を通して

「おにいちゃん、しゃしん好きなの?おかあさんといっしょだね」


そう笑う、女の子の声が聞こえて
しずかに、泣いた。



……そして、全てが終わった。

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