スタッカート


「それから

盗みのことはすぐに広まって、俺の親がいなくなっていることも知られるようになった。
もう、団地には居られなくなった。

親戚付き合いも殆ど無かったから、身寄りなんて居るのかどうかも分からなかったけれど

俺の叔父だとかいうおっさんがやって来て、そこに引き取られることになった」

言ってトキは深く息を吐き、俯いた。


沈黙が、降りた。


「……両親には、あれから一度も会ってない。何処に居るのか、何をしてるのかもわからない」

雨がまた激しくなり、雨粒が当っては弾けるその音が、部屋を包む。


――私は。

席を立って、腕を目一杯伸ばして



トキを、抱きしめた。




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