スタッカート



それからは、他愛も無い会話が続いた。


ハチさんの失恋記録が更新されたこと、

軽音部の部室が改装中であること、

二ヶ月後、柴農高校軽音部だけのライブをやることが決定したこと。


やがて、窓の外に広がっていた澄んだ青空は色を変え、いつのまにか日暮れの時間になっていた。


左腕につけたアナログの腕時計を見ると六時を回っている。

今日のピアノのレッスンは八時から。
週二のこの個人レッスンは、一番自分のピアノに集中できる。


…そろそろ、行かなければ。


ハチさんと楽しげに談笑しているヒナに声をかけ、また来るから、と席を立つ。
ヒナが笑顔で手を振るのと同時に、ハチさんもまた席を立った。


「俺もそろそろ、帰ろうかな」


言いながら椅子の下に置いていた鞄を肩にかけ、ドアの前に立つ私のほうへと歩いてくる。



少し寂しげな顔をするヒナに手を振りこちらに向き直って、ハチさんはにっこりと笑った。



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