スタッカート




それぞれの傷と、思い。
私の知らない過去と今。


触れたかった。

…知りたかった。

…こんな私、でも。


佐伯は大きくため息をつくと、柔らかそうな栗色の髪をくしゃりとかきあげた。
目を閉じて、暫くの間、口をきゅっと結んで黙り込む。


再び、沈黙が降りる。


私はその空気に押しつぶされそうになりながらも、譜面台に置いた楽譜の上で踊るオタマジャクシをひたすら目で追いかけることで、なんとか平静を保とうとしていた。


そして、もう最後の小節まできたというところで、佐伯の唇が動いた。



「……妹は、人見知りがもの凄く激しくて」
< 302 / 404 >

この作品をシェア

pagetop