スタッカート
長い廊下を歩きながら、考えるのはやはりトキの事だった。
ふと右手に持ったあの白い傘に視線を落とす。
相変わらず目つきが悪くて、うざったそうに私を見るんだろうな…そんなふうに思いながら、何故か胸の奥がくすぐったくなる感覚を覚えた。
やがて扉の上に「軽音部」と書かれた部屋の前につき、先頭を歩いていた勇太先輩が戸を開ける。
けれどすぐに、静かに、というように口の前で人差し指を立て私とヒナに顔を向けた。
私たちはきょとんとしながらもそれに従い、なるべく足音を立てないように中に入る。
吹き抜ける風の音と交じってギターの音が聞こえた。
部屋の隅にどっしりと構える古びたグランドピアノの上、こちらに背を向けてあぐらをかいて、一本のギターを抱え小さな声で歌う声が聞こえる。
私にはその背中が光を纏っているように見えた。
この温かな声、――トキだ。