スタッカート
ひとりでぽつんと廊下に立ち尽くし、空き教室へと向かう二つの背中を見ていると、後ろから、ぽんと肩を叩かれた。
振り向くと、ハチさんが難しそうな顔でこちらを見ていた。視線が合うとそろりと二人の背に視線を移し、小声で呟くように言う。
「あれが、佐伯くん?」
「…はい」
「…すっごい、……見てたね」
「気付いてたんですか?」
中にいたのだろうか、と首を傾げる。
「いやー、ちょっとね。角まがって部室に行くぞーってときにさ、ブレザー姿の二人が見えて…行きづらくて隠れてた」
ハチさんはそう言って、あははと笑った。
その様子に少しだけ、二人の対面に自分まで緊張していたことが恥ずかしく思えた。
「…ちゃんと話せるといいね」
穏やかな表情で、もう私たち以外には誰も居ない廊下を見ながら、ハチさんが零す。
私もその視線を追って、ただ長く続く廊下を見つめた。
はい、と頷いたときの声は、やはり搾り出すように掠れてしまった。