スタッカート
帰りのバスの中は、時間が中途半端な所為だろう、いつもの混み具合では考えられないほどに空いていた。
私は奥から三番目の窓際の席に座り、ぼんやりと夕焼けを見ていた。
建物に挟まれた半熟の夕陽が、薄い雲の布団に沈んでいく。
電柱が視界を掠めていく度、熟れた橙は少しずつ傾いていき、そのまぶしさに目を細めた。
…トキと佐伯は、今頃どうしているのだろう。
本当は、二人が話し終わるまであそこで待っていたかった。離れてしまえば、私のなかでの何かが途切れてしまいそうで不安でならなかった。
それでも私は、「案内する人」でしかないから。
今日はもう帰るべきなのだと、自分の背を、外へ、外へと押したのだった。
……どうかこの対面が、二人の関係を良い方向に導いてくれるよう。
今はただ、そう願う。
夕暮の橙がじわりと目に滲みて、痛かった。
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