スタッカート
16
朝、いつものように音楽室の鍵を手に私の席まで来た佐伯に、今日の放課後は空いているかと聞かれたのは、それから数日経ったある日のことだった。
突然のことに鍵を受け取ろうと手を出したままの格好できょとんとしてしまった私に、佐伯は笑った。
その笑顔は、今までみたこともないような爽やかなもので。
それだけで、心の奥で燻っていた不安が少しだけ薄れた。
目で返事を促され慌てて首を縦に振ると、じゃあHRが終わったら屋上にと言われて、また頷けば直ぐに、佐伯は握っていた鍵を私の掌に握らせ、自分の席へと戻っていった。
呆然とその背中を見、チャイムとともに教室に入ってきた担任の、日直、号令という野太い声に、はっと我に帰った。