スタッカート


廊下で、じっと窓の向こうのトキを見つめていた佐伯。
その姿を思い出す。


…あのとき、佐伯は

きっと初めて「いま」のトキを見たんだ。


「いろんな話を聞いた。

団地を出てからたくさんの人と関わって、音楽と出会ったこと。

仲間を見つけたこと…」


視線がゆっくりと移動して、私に向けられる。


「守りたいって思う奴に、出会えたこと」


―守りたい奴。

その言葉が、胸を叩く。
この痛みと、じわじわとひろがるあたたかさは、いったい何なのだろう。


佐伯は少しだけ、まぶしそうに目を細めると、再びグラウンドへと視線を戻して、小さく息を吐いた。


「…こいつは色んなことにぶつかりながら、色んなことを吸収しながら成長したんだ、そう思った。


罪を抱え込んで、それでも少しずつ、自分の力で。


……だから、


話を聞いているうち


自分が凄く恥ずかしく思えてきたんだ」
< 328 / 404 >

この作品をシェア

pagetop