スタッカート
そっか、とハチさんは再度楽しそうに笑って、続けて言った。
「ゆっくりしていってよ。ま、今日は、一年は集会で遅れてくるはずだし、トキ以外の二年は作業だからまだ来てないだろうけど」
「…ってことは」
「うん、二人っきりだねえ」
にこにこにこ。
ハチさんの笑顔が、自棄に輝いて見える…。
「……」
「まあまあ、そう緊張しないで」
なおも楽しそうに笑うハチさんに思わずため息を零しそうになりながら、階段を一段登る。
同じ段に立った私の顔を真っ直ぐに見つめ、ハチさんは微かに眼を細めた。
唇が、ゆっくり動く。
「…ありがとう」
首をかしげた私に、ハチさんは困ったように笑い、小さく息を吐いた。
「アイツ…トキが、過去から一歩踏み出せたのも、少しずつ変わり始めたのも、東子ちゃんのお陰なんだ」
「そんな―」
「トキはさ」
優しく細められた目が、真っ直ぐにこちらを見つめる。
「愛情とか友情とか、そういう生暖かいもんが苦手でさ。人に心を開くことに物凄く時間がかかるし、先ず進んで人と関わろうなんてことは絶対にしないやつだったんだ。
だけど…」
そこで言葉を切ったハチさんは、私の頭をくしゃりと撫でた。
その言葉の先にあるものを、私は声にされるまでもなく読み取ることができた。
自然と口元が緩んだ私に、ハチさんは再度くしゃりと頭をなで、行っておいでと私の背中を小さく押した。