スタッカート
目と鼻の先に迫ったトキの顔。
びっくりして目を見開いたまま、それでも深い藍色の瞳から目が離せない。
ひいいいいいい。
思わず叫びそうになりながら、何とか心の中でとどめることに成功する。
…けれど、トキも信じられないとでもいうように目を開いたまま、動かなかった。
困惑したまま、やがてゆっくりと、トキの薄い唇が動く。
「…それは、俺と付き合ってもいいってことか?」
「そ、う、あ…」
顔がゆで上がり、上手く言葉で返せない。
……いや、近いんだって!
けれどトキの眉間にぎゅっと皺がよるのが見えて、私は顔を真っ赤にさせながら、ぶんぶんと首を縦に振った。
――きっと。
きっとその時の、トキの顔を私は忘れない。
切れ長の眼が優しく細められて、唇が緩く弧を描いて。
あまりにも、やさしくあたたかなその笑みに。
私は思わず、見惚れてしまった。