スタッカート
はじめは、小鳥が囀るように。
そこから、だんだんと加速していく。
色とりどりの花
グランドピアノ
二脚の椅子
暗い廊下
音を重ねるごとに、記憶が次々と蘇った。
消えないものを抱えたままでも
弱さを持ったままでも、強くなりたいと言ったトキ。
私も――…そうなりたい。
強くそう思いながら目を閉じて意識を集中させると、勢いのある流れにまかせるように指が動き、頭の中にイメージが溢れた。
目を閉じれば見えてくる、薄い緑と澄んだ水色。
その先に広がるのは、壮大な緑と、きらきらと輝く川。
日の光と柔らかな風にそっと包まれているような心地よさが、指先から足のつまさきまで伝わる。
――あれほど。
あれほど遠く、たどり着けなかった世界が、今目の前にある。
なぜ、と自身に問いかければ、こたえるように胸の奥がじんと熱くなった。
頭を掠めたのは、トキの、優しく細められた目と、緩く弧を描いた唇。
この胸のあたたかさは、トキとお互いに想いを伝えたあの日から、胸に溢れているものだった。
それは、冷えた指先をやさしくあたため、目指すほうへと導いてくれる。
歓び、愛しさ、切なさ。
様々な感情が胸を駆け巡って、音となって空気に弾けた。