スタッカート


はじまりの一音が大きな波紋を生むように、音が重なり、響く。

切なく、熱く、紡がれる音は。
過去の記憶と重なって、胸がちくりと痛んだ。


音とともに溢れ、流れ出す、景色と、感情。


音が死んでいると言われたあの日から、ピアノを弾く楽しさを忘れた私。

自分のことがわからずに、周りに目を向けることもせずに、ただ悲観的になっていた、私。


鍵盤に指をのせるあいだに、ちらりとヒナを見る。
ヒナは音に集中しているようで、ただじっと、鍵盤を追っていた。


…ヒナはいつも、私を支えてくれた。
ステージの上で泣き崩れた私を抱きしめて。大丈夫、きっと乗り越えられると繰り返し励ましてくれた。

自分が辛いときさえ、私のことを心配してくれた。


…そう。

ヒナも、藤森先生も、佐伯も、ハチさんも―……。


みんな、私を見守ってくれていた。
たくさん、助けてくれた。


こんなに、こんなに、私は恵まれてた。


…そして




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