スタッカート

―謝る気はねえが撤回する。今のお前のピアノの音は、死んでねえ―

―……弾けるじゃねえかよ、ちゃんと―

記憶のなかの声に、心臓がドクンと跳ねた。
びりびりと、指先に熱いものが伝わる。

なんて、あたたかい声。

あの言葉を初めて聞いたときの嬉しさが、胸のなかにじわじわと沸き上がる。

優しく細められた目、緩く弧を描く唇。

時折見せるトキの柔らかな一面が、その瞬間が、胸を貫いた。



穏やかな音色に、重なる音。

ヒナと私は、一緒に呼吸するように、まるで長い間この曲だけを練習してきたかのように、止まることなく音を生み出し二人だけの流れを作っていった。

ふと視線を感じて隣を見ると、ヒナと目が合う。ヒナはまぶしそうに目を細めて、そして、笑った。

その笑顔に胸の奥が震えて。私は同時にそこが大きく疼くのを感じた。


ああ

この感覚を、私は知ってる。



ピアノが楽しくて楽しくて、仕方がなかったあの頃の。
すべての音が、世界を彩っていたあの頃の。


この旋律の先にある音を、私は知ってる。


―東子ちゃん、この音はスキップするイメージ。自由に楽しんで弾くの―






沈めた記憶の、いたみの向こう

夢に見続けたものがある




失くしてしまった、音がある






その、音の名前は





















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