スタッカート
「しっかし……凄いバンドだな、やっぱ」
呆れたようにそう零した海陽くんの視線を追うと、ステージの前にはぎっしりと人が集まっていて。
トキのバンドの人気を、ここであらためて感じた。
照明が落とされたステージに司会者らしき人物が立つと、それと同時に彼だけに強いライトがあてられる。
その後ろで、三つの影が動く。
バンドの準備が整うまでの間、間を持たせるために必死に喋る司会者の、額の汗がライトで光った。
観客からはトキ、とステージの真ん中に立つ彼を強く呼ぶ声が上がり、続いて怒声と奇声を混ぜたような声が沸きあがる。
…私はただ呆然と、その様子を見ていた。
隣で、海陽くんが、あーあとため息にも似た声を出すのが聞こえた。
「だいぶテンション上がってんな」
「な…なんか…大変だね」
「まあ、最近は俺らの高校だけじゃなく他の高校にもファンが出来てるらしいからな」
…すごい。
思わず、ため息とともにそんな声が出た。
ファン、かあ。
そういえばこの前のライブでも、彼らの出番になると前に人が押し寄せていったっけ。
あのとき、トキが物凄く遠くに行ってしまうような気がして胸に感じた、刺すような痛み。今も少しだけ、胸の奥が痛んで。
欲張りだ、と私は自分自身を小さく叱った。
さらに徐々に照明が落とされ、ひとつの影がすっと動いたのを見て、司会者がステージから下りたのだと分かる。
そのとき突然、目を細めてしまうほどにまぶしい、強いライトがステージにあてられた。
きらきらと光るマイク、ドラムセット。
ギターのボディが滑らかに反射して、私は目を細めた。
真ん中に立つ彼―トキは一旦顔を俯かせギターを何回か鳴らしたあとに、すっと、伏せていた顔を上げて。
……トクン、とまたひとつ、胸が鳴るのを聞いた。