スタッカート
切り裂くような鋭いギターの音が響くとステージは一瞬静まりかえり、あれだけ騒いでいた観客も誰一人声を発さない。
スティックを持った両手をゆっくりと持ち上げた恵さんが、手を勢いよく振り下ろす。それと同時に、すべての音が爆発するように鳴り響き、ライブハウスを揺らした。
びりびりと伝わるそれに、思わず眉間に皺が寄るのを自覚しながら、目を反らさずにステージを見る。
同時に観客からあがる歓声。名残のように数回叩かれるドラム、ギターの残響。
うっすら鳥肌が立った腕をさすりながら、ライトの光に疲れた目を休めようと下を向く。
しばらく沈黙が流れ、耳にトキの声が届いた。
「次の曲は…」
ゆっくりと、視線をステージへと戻す。
すると、私を見ていたらしいトキとがっちり目が合ってしまっって――私は、体を固まらせた。
パチパチと二度瞬きをしても、トキの視線が私から外れることはない。
…こういうとき。
余裕がある人なら、いや、普通の「彼女」なら、きっと微笑んだりできるのだけど、残念なことに私はそんな器用な人間ではなかった。
彼と目が合った瞬間に、この前の告白のシーンだとか台詞だとかが一気に頭の中に流れ込んできて、顔が熱くなってそれどころではない。
あ、だとかう、だとか、情けない声が喉の奥から出て、固まるだけ。
ハタから見たら、だいぶ――変だ。
隣の海陽くんも、
「大丈夫かよ。アイツめちゃくちゃアンタ見てるぞ」
なんて言って来るし
ああ、はやく――きっとここは、微笑むべきなんだと。
ぴくぴくと痙攣を起こしそうな口角を、無理矢理持ち上げようとしたとき――私の心臓が、また大きく跳ねた。
トキが。
やわらかく、優しく、微笑んだのだ。