スタッカート


心臓、止まるかと、思った。

ドクドクと激しく胸を打ちつける心臓の音を耳の奥で聞きながら、私はさっきよりもさらに体を硬くした。

優しいまなざしで、そのまましばらく―いや、もしかしたら数秒のことだったかもしれないけれど―私を見つめたトキは、不意に視線を落として、小さく息を吐いた。

照明が少しずつ落とされて、それにつられてがやがやと騒がしかった室内が静まってくる。

落ち着いた橙のような色のライトが、エレキギターからアコースティックギターに変えたトキを照らす。

弾き語りか、と隣で海陽くんが呟いた。



弾き語り。



頭に浮かんだのは、ピアノの上で胡坐をかいてギターを弾くトキの姿。窓から入り込む風に紛れて聞こえた、かすれた小さな歌声。

きゅうっと、胸の奥が甘く痛んだ。




指に挟んだピックが、ライトに照らされきらりと光る。

優しく弦を撫でるように流れた手が、澄んだ音色を生み出した。
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