スタッカート
すべてのバンドが終わり、前列に居た観客がどんどん減っていく。
私はまだライブの余韻から抜け出せずに、その場から一歩も動けないでいた。
隣に立つ海陽くんが長い息を吐く。視線をそこに写せば、苦笑気味な彼と目が合った。
「…あいつが、あんな歌を歌うなんてな」
あんな歌、と聞き返した私に、海陽くんは頷く。
「今日やっていた、トキが作ったって言ってたヤツ」
「?」
そんな曲、あったっけ?
首を傾げると、弾き語りの曲があっただろ、と呆れたような顔をされる。
「ああ、あの曲…」
「曲入る前にオリジナルだって言ってたの聞かなかったのかよ」
「…そ、その時は多分…それどころじゃ、なかったから」
私の言葉に、海陽くんが全く意味が分からないというように顔をゆがめる。
ドキドキしすぎて話に集中できなかったなんて、流石に恥ずかしくて言えなかった。
「よく、わかんねえけど……。
トキの作る歌は、大抵、詩が暗いんだ。メロディが明るめでも、影があるっつーか。…だけど、今日やってたオリジナルは全然違った。
正直驚いたな。コイツはこういうのも作れんだって。
まあでも…ああいう歌も、俺は嫌いじゃない。」
伏し目がちだった視線が、ゆっくり私へと向けられる。
「どうせ、アンタなんだろ。アイツがあんな歌を歌うようになった原因は」