スタッカート
外は、夜だということもあって風が冷たかった。
外に出ると手を離したトキは、私の半歩前をゆったりと歩いていく。
振り返らないその背中をぼんやりと見つめながら、歩調を合わせて歩いた。
星が見えない空、点滅する信号、鈍く光るアスファルト。
見える景色は殆ど色を変えることなくそこに在るのに、やっぱり何処か違って見えた。
一緒に居る人の存在は、景色さえも変えてしまう。
目の前を行く背中の、大きな力を感じた。
さっきの騒がしさが嘘のような沈黙のまま、横断歩道で赤信号に当たる。
びゅうっと強い風がふいて私の髪の毛が風に遊ばれる。
同時に冷えた指先をあたためようと、掌に息をふきかけた。
それでもそれはただの気休めでしかなく、また直ぐに指先は冷えていき。
カイロを持ってこればよかったと心の中で零すと、急に掌が温かさに包まれて――
はっとしてそこに視線をむければ、トキの掌がすっぽりと私の掌を包んでいた。
あ……。
ぴくりと、指先が震える。
視線を、ゆっくりと掌から彼に向ける。
深い藍色の瞳が、私を真っ直ぐに見つめていた。