スタッカート


ヒナの声が震えているのがわかって、私はそれから何も言えなくなり、電話の向こうの、じゃあまたね、という言葉の後、通話が切れる音が鳴っても、しばらくケータイを耳にあてたまま動けずにいた。


今まで、こんなことは一度も無かった。

聞いたことのない、あんなにも辛そうなヒナの声。

もやもやした気持ちのまま、お邪魔しました、と皆に頭を下げて、一人で軽音部の部室を出た。


夜の学校は少し薄気味悪くて、しかも自分の知らない学校の中というのもあって、道があたっているのかという不安も重なり私の胸はドキドキと悲鳴をあげていた。


…結構歩いたはずなのに…


私は、出口にいつまでたっても辿りつけずにいた。

暗い廊下の、深い静けさ。
怖さでちょっと泣きそうになって、目頭が熱くなる。


「―おい」



迷子の私を助けてくれたのは、やはりあの時と同じ声だった。

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