スタッカート
私のその質問に、音楽室を珍しそうに見渡していたトキが、ああそうだった、と肩に下げていた大きめのバックから、厚みのある袋を取り出して私に渡した。


「これ、渡しに来た。」


中を見てみると、洗濯され、綺麗に畳まれた私の洋服が入っている。

トキと初めて会った日、私はトキのマンションでお風呂を借りた。
その時、脱衣所に洋服を置いたままマンションを出てしまったことを私はすっかり忘れていた。


「うわ…ごめん」

いいよ、と手をひらひらさせて、視線を移したトキが、私の前に広げた楽譜とピアノを指差す。


「さっき弾いてただろ?邪魔して悪かった。俺はそっちの床で寝てるから気にせず弾いてくれ」


……いや。

何で?


正直そう首を傾げたけれど、さっきのことで突っ込む気力もうせ、私は黙ってイスに座り、深呼吸して鍵盤に触れた。


寝ると言っていたはずのトキは、床にどかっとあぐらをかいて座り、あの射抜くような目つきでピアノを弾く私を見つめている。






…弾きずらい…。
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