スタッカート
苦しそうに、ヒナは言葉を続けた。
「私…あの時…東子が、ピアノの前で泣いたとき、自分がこれから東子を守っていかなきゃって思ったの」
私の目を、真っ直ぐに見て言う。
「東子が、またほんとうに楽しんで、ピアノが弾けるようになるまで…って」
私は握っていたヒナの指を話し、その華奢な肩を抱き寄せた。
視界が滲んで、鳴咽が漏れた。
ヒナは私の背中に手を回して続ける。
その手の温かさに、また涙が溢れた。
「学校の先生にばれたって、傷つけられたって、お金が払えなくなって、ピアノをやめる訳にはいかなかったの。
東子はまだ、あの過去に縛られて、自分のピアノが弾けないでいる…」
目を閉じた瞼の裏、
蘇るのは、溢れるほどたくさんの、ヒナとの思い出。
ヒナと初めて会ったときのこと、一緒にピアノを弾いたこと、
些細なことで喧嘩したこと、
一緒に泣いたこと、笑ったこと
ヒナはどんな時も、
私の傍にいてくれた。
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