スタッカート


許してくれるかもなんて考えは無かった。

ただ、自分が伝えたいことを伝えよう。
もう、トキとはそれで終わりだ。


冷たい廊下を、ゆっくりとした足取りで歩いた。

あの時は迷路のように思えたこの長い廊下も、今では何かに引き寄せられるように足が動き、目的地がここだという根拠の無い確信が胸の中にはあった。


ピアノの上に座り、ギターを弾いているトキの後ろ姿が、浮かんでは消える。


「出て行け」なんて、言ってしまった。
来るなと言われたのに、来てしまった。


もうこれで、会うのは最後。
そう分かっているのに、胸が苦しくなった。


微かに軽やかなギターの音色が聞こえ、視線を向けると、そこには見覚えのある「軽音部」という文字と、古びたドア。


私は、ひとつ深呼吸をして、その重いドアを引いた。




< 84 / 404 >

この作品をシェア

pagetop