スタッカート
6
許してくれるかもなんて考えは無かった。
ただ、自分が伝えたいことを伝えよう。
もう、トキとはそれで終わりだ。
冷たい廊下を、ゆっくりとした足取りで歩いた。
あの時は迷路のように思えたこの長い廊下も、今では何かに引き寄せられるように足が動き、目的地がここだという根拠の無い確信が胸の中にはあった。
ピアノの上に座り、ギターを弾いているトキの後ろ姿が、浮かんでは消える。
「出て行け」なんて、言ってしまった。
来るなと言われたのに、来てしまった。
もうこれで、会うのは最後。
そう分かっているのに、胸が苦しくなった。
微かに軽やかなギターの音色が聞こえ、視線を向けると、そこには見覚えのある「軽音部」という文字と、古びたドア。
私は、ひとつ深呼吸をして、その重いドアを引いた。