actum fugae
 莫迦。

 莫迦だ。ばかだ。私は大莫迦だ!

 教師として失格だ。

 何が大人よ。何が生徒よ。莫迦じゃないの。

 こんなにも好きなのに。

 こんなにも、大好きなのに。

 なんで、なんで、なんでっ。

 ただ、名前を呼ばれただけなのに、こんなに嬉しいの……――?



 彼が走り去った後、たった一人残された教室で溢れるのはそんな想いと、そして我慢しきれず勝手に溢れ出た涙で。

 たった三ヶ月と言う短い時間の中で、私はこんなにも彼に惹かれて、彼を好きになっていたのだと改めて実感する。

 莫迦みたいに泣いて、漏れる嗚咽で喉を嗄らして、それでも学校を、仕事を休むだなんて事出来なくて。

 次の日からも私は必死で教壇に立った。

 あの後泣いたって気づかれるかな?気づかれたらヤだな、ってそんな事を考えながら向かった教室で。

 相変わらず声なんてかけてこない彼の、相変わらず女子たちと戯れて、私なんて気にしていない様子に少しだけ安堵して、私はまた改めて気を引き締める。

 それでも。

 それからの授業中に私へと向けられる彼の視線が、今まで以上に優しくなったと思うのは私の気のせい、なのだろうか。
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