actum fugae
 初めて訪れたこの土地に慣れる事はやっぱり無くて。元々いた場所が田舎だった事もある。

 この学校に来てから目に付いたのが各教室に設置された花や緑だった。

 ああ、ちゃんと環境の事も考えてるんだな、すごいなって感心したのも束の間。その花々に元気がない事にはすぐに気がついた。

 別に、私がやらなくちゃ駄目なわけじゃない。放っておけば良い、筈なのに。

「お?今日も朝から水やりってエライね!蛍チャン」

 私は何故か半ば義務的に、いつも朝早く学校に来ては各教室においてある緑に水をやる事が日課になっていた。

「……ねぇ、いつもいつも言ってる事だと思うんだけど?」

 そんな時に出会った。

 ううん、正直言うとこの子は私が副担任をしているクラスの生徒の一人。

「ん~?」

 いつもいつも、私をなめて。

「ちゃんと牧瀬先生って呼びなさいよ」

 私を莫迦にしてる、そんな子なのに。

 自分が所属する部活でもあるサッカーに対してだけはとても真剣で。

「えー、だって蛍チャンの方が可愛いし!ってかおはよ!」

「……おはよう、葛城君」

 こうやって朝練が終った直後の、更衣室に行くまでの間、葛城君が私に話しかけてくるのも。

 水やりと同じように日課になっていた。
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