actum fugae
 そして気づいた事がある。私が半ば義務的に水やりをやるのは……。

 何かキッカケを作って、彼と。葛城君と話すチャンスが欲しかったんだ、と。

 そう気づいてしまうと私は何だか一人でドキドキしてしまうようになっていた。

 気づいてしまえばそれはとても簡単な事だった。

 私は多分、そう言う意味合いで彼の事が気になっている。

 だけど私は“先生”で、彼は“生徒”だ。

 そして彼は私のことをただ、朝練の帰り道に時間潰しになる話し相手、くらいにしか思っていない。

 何より彼はモテるのだ。

 私みたいなオバサンなんかよりも、若くて可愛い子がいつも近くにいてくれる。

 こんな私に彼が恋心を抱いてくれる事なんてありはしない。

 そんな考えが頭に巡って、考えて考えて、考え抜いた結果に私は従う事にした。



 私は、彼の良き話し相手であろう、と。

 片思いで良い。

 好きでいるだけは自由なのだから、想うだけは自由なのだから。

 彼に気づかれないように恋をしようと。

 彼にとって、話しやすい良き先生であろうとそう心に誓ったのは、彼の副担任になって。

 毎朝5分間だけ話すようになって、二ヶ月が過ぎた頃だった。
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