actum fugae
 何が。

 一体何が起こった?

 理解出来ない。

 理解したくない。


 彼は私に一体何をした……――?


 頭の中で上手く整理出来なくて、混乱して、しすぎてぐちゃぐちゃで。

 だけど慌てて駆け込んだ職員室内にはすでに何人かの先生たちが一限目の準備をしていて、そんな所で泣いてなんていられなくて。

 上がった息と真っ赤に染まった顔をどうにか誤魔化しながら私は自分の席へと座って深いため息を一つ吐き出す。

 そこで気づくのは自分の右手に握られた、シャンパン色の可愛いジョーロの存在だった。



 一体どう言う意味で。

 どんな気持ちで彼は私に触れた?

 それよりも、何よりも。彼は遊びでこんな事が出来るのか。

 それを実感するのが怖くて必死で先程の出来事を無かったものにしたかった。

 何事も無かったかのようにしなければ。何も起こらなかったように思わなければ。

 私は自分自身に何度も何度もそう言い聞かせる。

 だって。

 ここで取り乱してしまえば、彼の事だ。きっと私が普通以上の好意を彼に抱いている事がバレてしまうに違いない。

 だからこそ私は“大人な対応”をしなければいけない。

 それが私が決めた、私自身のルール。
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