シングル・シグナル・ナイト。
「………?」
鼻に付く。
さびた鉄。
いや、これは血の匂いだ。
くじらの血だ。
淡い澱み色の血が、闇を甘く染める。
くじらはその牙を噛み合わせたまま、開こうとはしなかった。
きちんと、牙を剥く相手を弁えているのだろう。
もしかしたら、食いちぎべきる何かをずって待っているのかもしれない。
そうか。
さながら、まな板が包丁への怨みを溜めるかのように、
くじらは飢えていながらもなお、殺意を研ぎ澄ませているのだ。