シングル・シグナル・ナイト。
霧の向こうには、明日がないことが多い。
「…………はぁ」
くじらがあまりにも不憫に思え、
一志は左腕の袖を捲くり上げた。
手首を掴み、半時計回りに捩る。
闇が鈍く揺らぐ。
「ほれ」
一志は、非常食や小腹が空いた時の為に、いつも左腕を付けていた。
肩口から千切れた腕を2、3回くじらの目の前でちらつかせ、鼻先に放った。
くじらは申し訳なさそうに耳を垂らして、産地直送の肉を見つめていた。
やがて、牙の間から紅く細長い舌を出し、腕を舐め始める。
やはり、牙を向くべき物を見極めているようだ。
一志は、自分の肩から少し肉を削ぎ、小さく丸めて口にした。
蜂蜜と焼けた砂鉄と椎茸を混ぜたような味がした。