シングル・シグナル・ナイト。
やがて、一志は駅に着いた。
近くのスーパーが、無駄に優しい光を漏らす以外、特に何もない所だった。
駅の改札を抜けホームに立つ。
暖房の効いた待合室があったが、とても入る気にはなれなかった。
冷たい風に身を掠われながら、ぼんやりした眼差しで外界を見る。
駅は少し高い所にあり、いつもは遠く薄く平たく眺めるだけの街の明かりがよく見えた。
『あの明かりの数だけ生活がある』
何の時だったか、母の言葉だ。
『あの数だけ、誰かの人生があって、嬉しかったり、悲しかったり、泣いたり、笑ったり。私が絶対に交わらない人生がある』
あの時の自分には――と言っても1年前でしかないが――意味が分からなかった。
今なら推測することはできる。
あれはたぶん、自分への励ましだったのだ。
大学の後期試験に惨敗し、虚ろになっていた自分に『お前も生きろ』と母なりに気を遣っていたのだ。
今のところ、これが限界だった。
もしかしたら、もっと深い意味があり、それに気付く時が来るかもしれない。
それはその時に任せよう。
今は、これでいい。
息を多めに吐き出す。
自分はまだ生きていた。
今は、これでいい。