夢中毒〜ゆめちゅうどく〜

｢誰ですか？何も悪い事はしません。｣
振り返りながらそう言った。
(美しい)
彼の目には美しい女性が映っていた。
その透き通った瞳から逃れることができずに、永遠とも思える程の長い間。
彼女の瞳に吸い込まれていた。
｢あのっ、僕は……｣
ようやく視線をそらせて、自分には悪意など無いことを伝えようとするが適切な表現ができない。そもそもこの広い砂浜を自分が１人で歩いている理由が思いつかないし、帰り方も分からない。
どうやって今の状況を説明しようかと考えていると、またあの声が聞こえた。
｢用が無いなら帰って。そして戻って来ないで、それがあなたのためなの。｣
小声だったのだが空気が震えるような錯覚を覚えさせられた。
｢………っ｣
口を開きたかったが空気が圧迫していて息が出来ない。
目の前が暗くなっていき、美しい女性が徐々に薄れていった。