短編置き場・3
この国の王様は、まさに王様の中の王様だ。

立派なひげ、ふくよかな頬、黒真珠のような眼、どこをとっても非の打ち所がない。

そのみごとなお姿はトランプの絵札のモデルにされ、毎年の世界王様選手権では9年連続優勝という快挙もなしとげている。

王様の素晴らしい風格はこの国の誇りであり、同時に重荷であった。

ある日の晩餐会、王様はその背に垂らしたマントよりもはるかに広い円卓に並べられた豪奢なごちそうを前に浮かない顔をしていた。

「みごとな料理の数々だが、どうも食がすすまない」

王様の生活に、食事をもっとも美味しくしてくれる唯一無二のエッセンス、餓え、を感じる機会は与えられていなかった。

< 18 / 33 >

この作品をシェア

pagetop