夕暮れ行進曲
 坂井の手にはあのカイロが握られていた。それを眼にした途端俺は胸が締め付けられるのを感じた。

 それは始めて経験するような、昔の記憶のような、鳥肌のようなものまで立った。

「・・・おう。」

 俺がカイロを受け取ると坂井は体育館の方向へ走っていった。多分、泣いている。

 坂井も俺と同じように、いやそれ以上に苦しかったんだろう。

 俺はカイロを握った右手をポケットに入れて無心に教室への廊下を歩いた。
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