夕暮れ行進曲
 坂井はそんなメッセージを汲み取ってか、少し顔を赤らめて頷いた。
手にはしっかりとカイロが握られている。

 坂井と別れて俺は道路沿いに自転車を走らせた。
両掌がじっとりと汗ばんで全身が小刻みに揺れるほどにドキドキした。

 自転車は少し力を抜くと横転してしまいそうで運転に全身全霊で取り組まなければならなかった。

 家の横に自転車を停め、鍵を閉める。玄関のドアに手を掛けたが、鍵が掛かっていた。

 俺はなんだかわからないがとても急いでインターホンを押した。

「はい?」

 母さんが間の抜けた声を出す。
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