つま先立ちの恋


フーに言われた通り、ホテルの男の人が部屋に私の着替えを持って来てくれた。

それをフーが受け取ってくれて、私に手渡す。それからバスルームで着替えるように短い言葉で告げられた。部屋の入口、ドアの前に立ち尽くしたまま動けないでいる私にフーが言う。

「急がなくていい」

短い言葉はいつもと同じ。だけど、いつもと違う気がする。

「あ、でも、」

「柏木なら帰らせた」

「………え?」

「先に着替えろ。」


フーの思わぬ言葉に首から上だけが辛うじて動く。だけど、それ以上フーは何も言ってくれなくて、何かを言わせてくれる雰囲気でもなかった。もちろん私も、何も言える状態じゃない。

だから、大人しくバスルームに入ってドアを閉めた。

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