つま先立ちの恋
思わず生唾ごっくんしている私。そんな私をフーはいつものように少し斜めに、だけどまっすぐ見つめる。

え~、、、ちょっとそれは反則です。そんな風に見つめられたら私、女の子の一番大切なものをどうぞって差し出したくなっちゃう。


私はドキドキと震える足で何とかバスルームから出ることに成功した。その足はブーツも何も履いていない。着替える時にブーツは脱いだんだけど、フーに渡された物の中に私のブーツはなかったからだ。

自分の足で立って、私はフーと向かい合った。挙動不審なまでにキョロキョロとしてしまう。どこを見ればいいのかわからなくて。そうしたら、

「あの男とどこで会った?」

フーが言った。

「あの男…?」

すぐに思い当たらなくて私は首を傾げる。

「油断も隙もあったもんじゃない。前もそうだったが、あの男が絡むとロクなことがない。元々ロクな男じゃないがな」

その言い方にようやく思い当たる。

「あ、明人さんとは…その、偶然学校の帰り道で会ったの。で、その、思わずフーのクリスマスの予定なんかを聞いちゃったから…ごめんなさい。まさか、こんなことになるなんて思わなくて」

怒られた…。やっぱり怒られた。忘れた頃に怒られた。。

「あの、でもね、言い訳にしかならないけど、こういう場所だって知ってたら私、来るつもりなんてなかったよ。だから、あの、本当に…知らなくて…でも、会いたくて…ごめんなさい」

言いながらまた涙がこみあげてきた。

もう、どうしようもない。自分じゃ止まらない。止められない。またフーを怒らせちゃうだけかもしれないけれど、私にはもうこの涙を止めることができなかった。

「う、、、ご、ごめんなさい。泣いたりして。でも、と、止まらなくて…」

子どもみたいに私はしゃくりあげて泣いてしまった。

もういい。オトナだなんて思われなくても。

だってどんな格好をしたって、どんなに背伸びをしたって私は子どもなんだもん。つま先立ちのままじゃあ、フーを追いかけることもできない。


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