つま先立ちの恋
そうしたら、


「…この頃のお前は、泣いてばかりだな」


ため息まじりのフーの声がした。だけど、いつもと違うように聞こえるのは私の願望なんだろうか。

「だから言っただろう。俺は立ち止まるつもりはないと」

涙で揺らぐ視界の中で、ゆっくりとフーが立ち上がる様子だけを感じ取る。そして、その姿が大きくなるのを輪郭だけで捉える。

「それでも追いかけてくるから、お前は馬鹿だと言うんだ」

その黒い大きな影は私の目の前で立ち止まった。顔を上げたらそこには、私をまっすぐ見下ろすフーの二つの瞳。その瞳の色がいつもと違うように見えるのは、やっぱり私の錯覚なんだろうか。

だけど、その瞳が私に言う。

「……追いかけてくるつもりなら、泣くな」

そして、その唇が私に言う。

「馬鹿みたいに笑ってろ」

その大きな手が私を引き寄せて、

「背伸びよりも、お前に必要なことは他にある」

温かい腕が私を包み込んだ。
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