東京エトランゼ~通りすがりの恋物語~

そして、すぐさまあたしの髪のシャンプーに取りかかる彼。


「あのヒトさぁ、この業界では“美容師界のブラックなんとか”って呼ばれてるくらいの天才美容師なんだ」

シャンプーをしながら彼が言う。

「え? ブラック……なに?」

対するあたしは仰向けでシャンプーをされながら答える。

「知らないかな? それこそ、医者がサジを投げちゃうような不可能な手術をやってしまう天才外科医のマンガがあるんだけど」

「ふぅん、そーなんだ…あたし、帰国子女だし、ニッポンのマンガとか全然知らなくて」

「そっか。とにかくさ、俺、あのヒトみたいになりたくてさ、だからどんなに厳しくても絶対あのヒトについていくって決めたんだ」

「へぇ、いいね、あなたには“夢”があって」

「キミにはねぇの?」

「夢もないし、“将来”もなければ“希望”もない……」

「キミ、何歳?」

「17」

「若いんだし、夢くらい、これからいくらだって見つけるチャンスはあると思うぜ」
< 202 / 301 >

この作品をシェア

pagetop