東京エトランゼ~通りすがりの恋物語~
そう言って彼の差し出したコップの中身を、よく見もしないで飲んだあたしは、“オエーッ”と吐きそうなくらいのマズさをクチの中全体で味わってしまった。


「苦っ…なに、コレ、ビールじゃんっ…」


「おっと、いけねぇ、間違えた。なんせ、今まで未成年と焼き肉喰いに来たことなんてねぇしな。ワザとじゃねんだ、間違えたんだ」

「アシくん、あたし、酔わせてどうするつもり?」

「だから、ワザとじゃねぇって」

「あたし、知ってるよ……焼き肉屋にくる男と女はみんなデキてるんだって」

「ば、ば、ば、バカ、人前でそんなことデカイ声出して言うもんじゃねぇっ…」

笑っちゃいそうなほどオロオロしている彼。久々のリアクション・アニキ健在。


「ねぇ、ちょっと」

手の平を上に向けた状態で、人差し指だけをクイ、クイッとさせて、彼の顔を近づけさせるあたし。


じゅう~…


肉の焼ける音にかき消されそうに小さい、そして囁くような声であたしはこう言った…、
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