東京エトランゼ~通りすがりの恋物語~
うす暗い女子トイレの個室の中に、あたしとユーの二人が肩を寄せ合うようにして並んで立っている。
個室の中は臭くなかった。もちろん、彼女がトイレをするためにソコに入ったんじゃないことは分かってる。
「さ、さすがに二人で入ると、ちょ、ちょっと狭いね…♪」
場をなごませようとワザと明るい感じで言うあたし。
「他人(ひと)を入れたのは、あたしもはじめてだけど、二人で入るとホント狭いね。でもアイじゃなかったらゼッタイ入れない。ココはあたしだけの世界だから」
「女子トイレが…ユーの世界…?」
黙ってうなずく彼女。
「あの…こんなこと訊いていいのか分からないけど…ユー…なんでアナンに“トイレのイサミさん”…なんて言われてるの…?」
恐る恐るあたしは訊いてみた。
「去年の夏のことよ。ひどい生理痛で朝からずっと気分が悪くて、もどしそうになったから慌ててトイレに行こうとしたんだけど、足がもつれてコケちゃって、教室の床じゅうに胃の中のモノを全部ぶちまけちゃって……」
「うっ…」
そのシーンのビジュアルが頭に浮かんできて、思わず言葉を失ってしまう。