東京エトランゼ~通りすがりの恋物語~
あたしは黙ってうなずいた。彼も彼女がいじめに遭ってるのを知ってるみたい。
「アイツもな、俺みてぇに高校なんか行かずに働きゃいいのに。それか、とりあえず高校辞めて、大検(※大学検定試験のこと)でも受ければいいと思うんだけどな」
凱は中学卒業後、家業を継いでパティシエとして働きはじめた。
物心ついた頃には父親と同じ仕事で生きていくことを決めていた彼にとって、高校の勉強なんて必要なかったし、そんなヒマがあったらチョコの1コでも作ってたほうがマシだと思ったんだそうだ。
“学校はやりたいことを見つけるための場所。だから、やりたいことが見つかったら、もう行く必要がない”っていうのが彼の持論。
ちなみにコレ、全部ユーから教えてもらった情報だけどね。
「そうだね。凱を見てると、フツーに高校行って、大学行って、社会に出てみたいな一般的なルートを通ることだけが、ヒトの生きる道だとは思わないよ」
あたしはまだやりたいことが見つかっていない。将来なりたいものも決まってない。だから中学卒業の時点で、人生の決断をした彼のことを心の底から尊敬していた。
「ところでクリスはどうなんだ?」
彼からの不意な質問だった。