桜の木の誓い
そもそも全ての始まりである“芹沢があぐりを妾にしたがっている”という情報の提供者は佐伯一人だ。
だが、芹沢はあぐりの存在さえ知らずお梅に骨抜き状態。更には側近である平間も知らず。
明らかに佐伯の話は矛盾している。
これらを踏まえ、情報提供者である佐伯がこのシナリオを操っているというのが妥当だろう。
そしてそれは一体何故なのか。
───それは佐伯があぐりを手に入れたいから……。
佐々木とあぐりが他の地へ移る決意のきっかけをやった佐伯の意図は。
───それは佐伯が“何らかの行動”を仕掛けようとしており、二人だけを誘い出す為に他人に怪しまれない様にしたかったから……。
現に、佐伯のアドバイスで素直な佐々木は近藤宛てに事情を説明した置き手紙を残しており、このまま帰って来なくとも何ら不思議ではない。
つい先程平間の呟きを聞いて悟った佐伯の企みと内なる思い。
(よく考えれば判る事だったのに…!)
外面だけで人を判断する事がどんなに危険なのかを知っていた、否、知っているつもりになっていた。
佐伯は温厚、安心、大丈夫、そんな人じゃない。此方の勝手な思い込みで造り上げた人物像を信じ込み、真っ向から芹沢を疑った。
この世に人伝に得た情報ほど、不安定なものはないのに。
今現在、何時もなら居るはずの佐伯がこの場に居ない事が優真を焦らす。本日の夜の巡察は藤堂の隊の為、隊務ではない事は確か。
もし、“何らかの行動”を起こすとするならば闇に包まれ人の目を然程気にしなくていい、夜に実行するはず。
今晩、佐々木の身に危険が迫っているのは明確だった。
そして、優真の考えている佐伯の“何らかの行動”とは。
あぐりを手に入れる為に佐伯にとって最も邪魔な存在────恋仲である佐々木愛次郎、一人を消す事。