桜の木の誓い
───
─────…


月明かりだけを頼りに夜道を走る者が一人。


(佐々木は一体どこに……!)


急いで屯所を出てきた優真は提灯も下げずに、辺りを見渡しながら先を進んでいた。


 ジャラッ…


ふと足裏に感じた違和感。
何か踏んだのだろうか、そんな事を思い優真は足を止め、下を窺う。



「――っ…!」



火照った躯が急速に熱を無くしてゆくのを感じた。

何でこれがここに?

どうして?

そんな疑問が頭の中を占める中、そっとそれを掴んで持ち上げる。


月明かりに照らされたそれは矢張り、




佐々木の手にある筈の布袋──…。





「佐々木にあげた……」


ぽつりと確認する様に呟いた優真の視界の片隅に、道外れにある藪が映る。


本能だろうか。

それとも勘というやつか。


無性に其処に何かある様な気がしてならない。いや、行かなければならないと感じる。




──そして。

行って何もなければ戻ってくればいい、と優真は藪中へと入っていった。








藪中へ入ってどれ程の時が過ぎたのか分からない。月明かりも然程入ってこない。

だが言える事は、足の疲れを感じるほど入口から距離のある事。


歩いて、歩いて、ひたすら歩いて。


今着ている袴が少し湿り気をおびはじめた時。遠目に藪のない拓けた場処が見えた。

足を止める事なく、其処に近付いてゆく。

半分ほど行った処で、先程見付けた場処に紅いものが落ちている事に気付いた。


(…あれは、ぬの?)


淡い紅の布らしく、その塊が暗闇の中にちょこんと栄えていた。

自然と其処へ向く足。

ガサッとした音と共に優真は拓けた場処に出た。

そして、あの淡い紅の布の塊を視界一杯に映す。










この時、私は自分の無力さに嫌悪した──…。
< 117 / 136 >

この作品をシェア

pagetop