桜の木の誓い
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 カタッ…

襖を開けると、信太郎が何とも言えぬ様な表情を浮かべて立っていた。その光景に優真はまたか…と溜息を洩らす。



「先生、また行くんですか? ちゃんと夜は寝て下さい!」

「あー…隊務に支障はないし大丈夫かと。 それに少しは寝てるよ?」

「いいえ! 毎夜毎夜出掛けて朝まで帰ってこないなんて寝ているわけありません。 もう……僕は心配なんです…」



ぼそぼそと言った最後の言葉に優真は心配を掛けさせて申し訳なく思う。

だが、何故か止められないのだ。



「先生はまだ佐々木さ…」

「信太郎」



突如、ピンッと張り詰めた空気。

信太郎は最近よく会うこの空気に慣れつつあった。

佐々木の死から幾日かたったが、この人はまだ乗り越えてはいない、いや、乗り越えようとさえしていない。

先程の様に彼の話をしようともなると、表情は強ばり拒絶を示す。

未だに瞳に意志は感じられず、ぼやっと遷ろうてる様に見受けられる。

よく見ていないと分からないこの事に、優真が佐々木の死に対して多大な影響を受けているとは極僅かな者以外気付く事はないだろう。

そして厄介な事に、優真自身が無意識の内に佐々木の事から逃げているのだ。


沖田は様子を見ようと言ったが、信太郎はもう我慢の限界だった。


(今の先生は先生じゃない……)





「じゃあね、信太郎」


ふらりと玄関へ行く優真を止めるも、あっさりとそのまま外へと行ってしまった。


「先生…」


小さな呟きは誰にも拾われる事なく消えてゆく……





―――――はずだった。
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