桜の木の誓い
「えっと…此処に置いてくれません?」
「ええっ!?」
突然の事に沖田は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
それに構うことなく優真は鋭い眼差しを沖田に向ける。 瞳が、その表情が、身に纏った空気が、その言葉の真剣さを物語っていた。
(さっきまでとは違う…なにかが変わった?)
沖田はその気迫にごくりと生唾を呑んだ。
――動乱の幕末、多くの血が流れた時代。
文久といえば江戸時代の末期だ。 既にペリーが浦賀に来航した後であり、その頃の情勢は明治維新の起こる前で酷く荒れたイメージが優真の中であった。
そんな世で、平和慣れした自分が此処から出て独りで生きていくなんて恐ろしく無謀なことに感じた。
まだ死にたくなどない。
家族も友人も頼れる人がいないならば、目の前の沖田に縋るしか方法はなかった。
「そんなこと突然言われても僕だけでは――」
「御家族は」
不意に聞こえた見知らぬ声。
振り向けば、何時来たのか威厳を漂わせた体格の良い男が部屋の入口に寄り掛かっていた。
「近藤さん!」
「近藤さん?」
聞けばこの試衛館の流派――天然理心流の宗家四代目にあたる近藤勇というらしい。
(ん…? 幕末で近藤勇に沖田総司に……まさ、か)