桜の木の誓い
―――――


「桜雨、か…」

「? 桜雨ってなんです?」

「そのままの意味。 桜の花が咲く頃に降る雨のことだよ、ほら」


そう言って少年の面影が残る小柄な青年は外を指差す。 


「あらら、さっきは降りそうな空ではなかったのに」


釣られるように外を見てそう言った、男と言うには似つかわしくない、まるで女の様な容貌をした青年は然程興味が無いのか直ぐに視線を団子に戻した。 

この青年、此処からそう遠くない“試衛館”という道場でサボり癖はあるが剣術に励む沖田総司という。

本日も稽古を抜け出し、大好物である甘味を美味しそうに頬張っていた。

その様子を何とも呆れた表情で見つめる先程桜雨のことを教えた青年は、同じく“試衛館”で剣術に励む食客(※居候)の内の一人、藤堂平助だ。





二人は行き付けの甘味処を訪れていた。

行き付けと言っても、沖田が試衛館の中で歳の近い藤堂を無理矢理連れて行ってる、つまり沖田の行き付けの店といった表現のほうが正しい。


行きは晴天だった空が、今は灰色に染まりポツポツと雨が降り注ぎ始めているのを藤堂は仰ぐと、立ち上がった。

そして沖田の腕を取る。


「総司、酷くならないうちに帰るよ」


藤堂はそう言うと素早く勘定を済ませ、いやいやと渋る沖田を店から引きずり出した。
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