桜の木の誓い
“ここから出で行け”

その言葉が優真の頭に反芻される。それと同時にじわじわと怒りのようなものが湧き上がってきた。


なんで斎藤にそこまで……、そこまで言われなきゃならない…!



優真はあれから人を2、3人斬った。
その後は待っていたように腕が震え始めるということが必ず起きていた。

それに斎藤は気付いていたのだろう。



だが、それは隊務に問題ないはずだ。隊務が終わった後のことだから。


あーーなんかもう!腹立ってきた…。





───普段怒ることがない者が怒ると怖いと言う。


正しく今の優真がそうだった。優真の身に纏う空気が変わりピリピリとしている。


「なんで「おい!何をする!」


優真が斎藤に言葉を発したその時──。
前方から知らない声が叫んでいるのが聞こえた。その音色に怒りが含まれているのが判る。


優真は斎藤から目を逸らして声のした方を見ると、芹沢に向かって声を荒げている数人の力士がいた。芹沢の前には腕を抑えて蹲る力士が一人。

それを見て優真はなんとなく察しがついた。芹沢の手にある鉄扇を見る。


あれで叩いたのか……。


何故芹沢が力士を鉄扇で叩いたのかは判らないが、あれで叩かれた痛みは余程だろう。


優真は詳しいことを訊こうと永倉に近付いた。


「何があったの?」

「おおっ、優真か。聞こえなかったのか?力士の一人がすれ違いざまに色々言ってきてよ、それで頭にきた芹沢さんが鉄扇でバシッ!とな。刀には手をつけなくてよかったぜ。一瞬ひやっとしちまった」


再び鉄扇で殴ろうとした芹沢を必死で止める沖田を見ながら、永倉はそう言った。
どうやら先に仕掛けてきたのは力士達のようだ。


「はぁ…面倒なことになりそう」

「優真も思うか?俺もそんな気がするぜ…」





この後すぐに二人の予感が的中することとなる。

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